法定養育費・形成養育費 -弁護士による条文解説

公開日:2026年3月22日
 

法定養育費って何?

 旧民法では、父母の協議や家庭裁判所の手続きによって養育費の額を取り決めなければ、養育費を請求することができませんでした。
 新民法766条の3により、養育費の取決めをしていなくても、離婚のときから引き続き子どもの監護を主として行う父母は、他方に対して、一定額の「法定養育費」を請求することができるようになりました。
 なお、2026年3月31日以前に成立した離婚については、法定養育費は発生しません(改正法附則3条2項)。
 

法定養育費は、いくら?

 法定養育費の額は、月額2万円に子の数を乗じて得た額です(新民法766条の3第1項の規定に基づき2025年12月12日に定められた法務省令である「民法第308条の2の規定による子の監護費用の先取特権に係る額の算定等に関する省令」2条)。
 たとえば、子が2人の場合は月額4万円、子が3人の場合は月額6万円となります。

法定養育費は、いつからいつまで?

 法定養育費は「離婚の日」から発生します(新民法766条の3第1項)。
 そして、法定養育費の終期は、次の①②③のうちのいずれか早い日までです(新民法766条の3第1項)。
① 養育費の協議成立日・調停成立日
② 養育費の審判確定日
③ 子が成年(18歳)に達した日
 
 最初の月と最後の月については、日割り計算します(新民法766条の3第2項)。

 以上を前提に、たとえば、子ども(1人のみ)の養育費を定めずに2026年4月16日に離婚して、離婚のときから引き続き、子どもの監護を主として行う母(元妻)が、父(元夫)を相手方として、7月中旬ころ離婚調停を申し立て、11月15日に養育費調停が成立した(または審判が確定した)ケースについて、法定養育費の始期と終期などを図示します。
 

 

形成養育費について

 「形成養育費」とは、「調停や審判で形成する養育費」をいいます(東京家庭裁判所判事剱持淳子ほか「改正家族法の要点と解説Ⅲ 第8章 法定養育費」『家庭の法と裁判 2026年2月 第60号』94頁左段下から4行目による定義)。従来は単に「養育費」と言っていましたが、「法定養育費」と対比して「形成養育費」という用語を、法曹実務家が用いるようになりました。

 先ほどと同じケースにおける法定養育費と形成養育費の関係を、図示します(調停・審判で定める養育費の月額を10万円とします)。

(以下は、やや専門的な内容です。)
 オレンジの部分が法定養育費です。黄色の部分が形成養育費です。
 形成養育費は、法定養育費と異なり、最初の月と最後の月について日割り計算をしないのが一般的です。
 (たとえば、調停を7月中旬に申し立てた場合、形成養育費の始期は7月1日となります。)
 法定養育費を、形成養育費の始期の前後で分けて、「始期前法定養育費」「始期後法定養育費」と呼びます(『家庭の法と裁判』2026年2月号95頁右段2行目)。
 上記のケースの場合、始期前法定養育費は、4月は日割り計算で1万円、5月・6月は各2万円で、合計5万円です。始期後法定養育費は、7月・8月・9月・10月は各2万円、11月は日割り計算で1万円で、合計9万円です。
※ なお、形成養育費という用語の用法の問題ですが、後で見るように、法定養育費に相当する部分を含めて、調停や審判で養育費を定めることもあり、その場合は、上記の図のオレンジの部分も「形成養育費」に当たることになります(前掲『家庭の法と裁判 2026年2月 第60号』95頁は、そのような用語法を採用しています。つまり、「形成養育費」は、「法定養育費以外に新たに形成する養育費」のみに限定せずに用いる用語ということになります)。

 実際の調停や審判において、法定養育費の部分をどのように取り扱うかについては、後述します。

 

先取特権(さきどりとっけん)

 旧民法では、養育費の取決めをしていても、調停調書や公正証書などの「債務名義」がない限り、強制的に養育費の支払を受けるための民事執行の申立てをすることができませんでした。
 新民法306条3号及び308条の2は、養育費その他の「子の監護の費用」によって生じた債権(上限額あり)に「先取特権(さきどりとっけん)」と呼ばれる優先権を付与し、債務名義がなくても、養育費の取決めの際に父母間で作成した文書に基づいて、差押えの手続を申し立てることができるようになりました。
 「子の監護の費用」の先取特権の上限額は、月額8万円に子の数を乗じて得た額です(新民法308条の2の規定に基づき2025年12月12日に定められた法務省令である「民法第308条の2の規定による子の監護費用の先取特権に係る額の算定等に関する省令」1条)。
 また、先取特権のメリットとして、複数の債権者による差押えの競合が生じた場合等において、他の一般債権者(たとえばサラ金業者からの差押えなど)に優先して弁済を受ける権利を有します。
 
 なお、2026年3月31日以前に養育費の取決めがされていた場合には、2026年4月1日以降に生ずる養育費に限って先取特権が付与されます(改正法附則3条1項)。
 
 前述のケースにおける法定養育費と形成養育費の関係について、先取特権のラインも合わせて図示します。黄緑色の部分が、先取特権なしの部分です。
 

養育費調停・審判における法定養育費の取扱い

 上述の法定養育費・形成養育費・先取特権を前提として、養育費調停・審判における法定養育費の取扱いは、先取特権に基づく担保権実行が先行しているか否かによって分けて考えると分かりやすいです(やや専門的な話です)。

Ⅰ 先取特権に基づく担保権実行が先行しない場合

 始期前法定養育費および始期後法定養育費(図のオレンジ色の部分)も含めて、養育費の合意(調停)または審判をし、法定養育費が包含されていることを調停条項や審判書の理由中で明らかにしておく、という運用がとられることが多いと予測されます。
 

Ⅱ 先取特権に基づく担保権実行が先行する場合

 Ⓐ担保権実行の請求債権となっている法定養育費を含めないで、法定養育費以外の部分を調停・審判の対象とする、という取扱いと、Ⓑ未払の法定養育費相当額を包含して養育費の額を定め、担保権実行の一部取下げ条項を入れるなどして調停を成立させ、または、執行による請求債権から取り下げた法定養育費相当額を包含して、審理終結時の未払養育費額を確定し、審判日の属する月の前日までの未払額について一括即時払いを命じ、審判日の属する月から審判確定日までに発生する法定養育費相当額を包含するものとして、形成養育費の定期払を命じる、という取扱いが考えられます。
 私見では、Ⓑの取扱いは複雑になりがちですので、先取特権に基づく担保権実行が先行する場合は、Ⓐの取扱いが原則になるのではないかと考えています。
 ただ、Ⓐの取扱いの場合も、民事執行が2本化することになり、執行手続が複雑化することは免れません。
 手続きな簡明さという点からいえば、「Ⅰ 先取特権に基づく担保権実行が先行しない場合」が最も簡明だと思います。

 

結局、どういう手続きをとるのがよいか?

 養育費の取決めをしないまま離婚して、期間が経過してから、養育費を請求しようとする場合、結局のところ、どういう手続きをとるのがよいでしょうか。
 標準算定表などによる養育費の見込み額が法定養育費よりも高い場合、すぐに養育費調停を申し立てたほうがよいことは間違いありません(形成養育費の始期は調停申立月ですので、早く申し立てたほうが全体の金額が上がります)。
 
 問題は、養育費調停申立てと同時に、先取特権に基づく担保権実行の手続きもとるべきかどうかです。
 前項で見た通り、離婚日からの法定養育費について先取特権に基づく担保権実行の手続きをとりつつ、同時に、養育費調停を申し立てると、手続きが極めて複雑化してしまい、調停成立又は審判確定までの期間が増え、当事者の負担が増えてしまいます(そうすると、弁護士に依頼する場合も、弁護士費用が高くなってしまいがちです)。その反面、得られる養育費の総額は変わりません。
 そうだとすれば、離婚日(2026年4月1日以降に限る)からかなり年月が経過していて、法定養育費がかなりの金額に膨らんでいて、回収を特別に急ぎたいような場合でない限り、単純に、養育費調停だけを申し立てるのが得策である場合が多いと考えられます。

 

新民法の関係条文および法務省令

(一般の先取特権)
第306条 次に掲げる原因によって生じた債権を有する者は、債務者の総財産について先取特権を有する。
 一 共益の費用
 二 雇用関係
 三 子の監護の費用
 四 葬式の費用
 五 日用品の供給

 
(子の監護費用の先取特権)
第308条の2 子の監護の費用の先取特権は、次に掲げる義務に係る確定期限の定めのある定期金債権の各期における定期金のうち子の監護に要する費用として相当な額(子の監護に要する標準的な費用その他の事情を勘案して当該定期金により扶養を受けるべき子の数に応じて法務省令で定めるところにより算定した額)について存在する。
 一 第752条の規定による夫婦間の協力及び扶助の義務
 二 第760条の規定による婚姻から生ずる費用の分担の義務
 三 第766条及び第766条の3(これらの規定を第749条、第771条及び第788条において準用する場合を含む。)の規定による子の監護に関する義務
 四 第877条から第880条までの規定による扶養の義務

 

(離婚後の子の監護に関する事項の定め等)
第766条 父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者又は子の監護の分掌、父又は母と子との交流、子の監護に要する費用の分担その他の子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。
2 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所が、同項の事項を定める。
3 家庭裁判所は、必要があると認めるときは、前2項の規定による定めを変更し、その他子の監護について相当な処分を命ずることができる。
4 前3項の規定によっては、監護の範囲外では、父母の権利義務に変更を生じない。

 

(子の監護に要する費用の分担の定めがない場合の特例)
第766条の3 父母が子の監護に要する費用の分担についての定めをすることなく協議上の離婚をした場合には、父母の一方であって離婚の時から引き続きその子の監護を主として行うものは、他の一方に対し、離婚の日から、次に掲げる日のいずれか早い日までの間、毎月末に、その子の監護に要する費用の分担として、父母の扶養を受けるべき子の最低限度の生活の維持に要する標準的な費用の額その他の事情を勘案して子の数に応じて法務省令で定めるところにより算定した額の支払を請求することができる。ただし、当該他の一方は、支払能力を欠くためにその支払をすることができないこと又はその支払をすることによってその生活が著しく窮迫することを証明したときは、その全部又は一部の支払を拒むことができる。
 一 父母がその協議により子の監護に要する費用の分担についての定めをした日
 二 子の監護に要する費用の分担についての審判が確定した日
 三 子が成年に達した日
2 離婚の日の属する月又は前項各号に掲げる日のいずれか早い日の属する月における同項の額は、法務省令で定めるところにより日割りで計算する。
3 家庭裁判所は、第766条第2項又は第3項の規定により子の監護に要する費用の分担についての定めをし又はその定めを変更する場合には、第一項の規定による債務を負う他の一方の支払能力を考慮して、当該債務の全部若しくは一部の免除又は支払の猶予その他相当な処分を命ずることができる。

 

民法第308条の2の規定による子の監護費用の先取特権に係る額の算定等に関する省令

民法(明治二十九年法律第八十九号)第三百八条の二並びに同法第七百六十六条の三第一項及び第二項(これらの規定を同法第七百四十九条、第七百七十一条及び第七百八十八条において準用する場合を含む。)の規定に基づき、民法第三百八条の二の規定による子の監護費用の先取特権に係る額の算定等に関する省令を次のように定める。
 
(子の監護費用の先取特権に係る額の算定)
第一条 民法第三百八条の二に規定する法務省令で定めるところにより算定した額は、一月当たり八万円に同条に規定する定期金により扶養を受けるべき子の数を乗じて得た額とする。
 
(子の監護に要する費用の分担の定めがない場合の特例に係る額の算定)
第二条 民法第七百六十六条の三第一項に規定する法務省令で定めるところにより算定した額は、二万円に同項の規定による請求をする父母の一方が離婚の時から引き続き監護を主として行う子の数を乗じて得た額とする。
2 民法第七百六十六条の三第二項の規定による日割計算は、離婚の日の属する月又は同条第一項各号に掲げる日のいずれか早い日の属する月の日数を基礎としてこれを行う。
3 前二項の規定は、民法第七百四十九条、第七百七十一条及び第七百八十八条において同法第七百六十六条の三第一項及び第二項の規定を準用する場合について準用する。